群馬県のごく一部の人しか名前は知られていない方でしょうが、群馬県合唱連盟、高崎市民音楽連盟等の創立者であり、現役理事長の斎藤民先生が、昨日お亡くなりになりました。享年93才。
私にとって、久しぶりにインパクトのある「人の死」でした。
趣味として「合唱」と最近は明言していますが、その当初から斎藤先生は直接・間接に関与してきました。とくにこの2年半は、斎藤先生が直接指導している「みどり会混声合唱団」にも所属していましたから、先生の93年の人生のわずか37分の4程度しか関わっていなかったと雖も、私にとっては、人生に影響を与えた、とはっきりといえる人物でした。
行政書士会というのは、超高齢化社会です。だからよく「後進を育てない・譲らない」という批判が、永年役員をしている方に向けられます。だが、果たしてそうか、と最近はいつも思っています。後進は育てられる? 譲られる? そんな生易しいものでは、その組織はつぶれた方がましです。もちろん、形式・表面的なことは先人として教えることはあっても、核心は盗み取り、工夫して開発してこそ進歩があるというものでしょう。その結果として、奪い取るものです。だから逆に「いいお年寄り」ぶって、「若いモンに譲る」といって一歩引くお年寄りをみると、最近は「何いい子ぶって居るんだ」と、イライラすることすらあります。
斎藤先生にも同様な批判はありました。なにせ、93才まで現役ですから。だけど、批判する人は、上記のとおり、自分で盗みとり、自分で工夫して開発し、奪い取ることができなかった人の遠吠えだ、と私は思っています。
ふと、今日、斎藤先生の指導で歌った合唱曲を一つ一つ思い出してみました。順番にいくと…高田三郎先生の『水のいのち』。中田喜直先生の『日本の四季の歌』。小林秀雄先生の『落葉松』。みどり会合唱団では、団伊玖磨先生の組曲『川のほとりで』に、かの有名な『筑後川』。高田先生の『心の四季』から2曲。池辺晋一郎先生の『花の祈り』。そして練習の合間に、曲集からそれこそ思いつきで歌った、古典的国内外の名曲の数々…。最近は大中恩先生の組曲『心の抄』、『サトウハチローの詩による5つの歌』等々…。わずかな期間ではありましたが、他に所属している合唱団では決して取り上げることはなかったであろう、味わいのある曲がズラリとならんでいます。そして、指導は具体的に何があったか、というと、まさに「雰囲気から学べ」というものが多かったものの、歌詞の大事さ、作曲者も意図を読み取る術…。たんたんと、いや、飄々とした、という印象がむしろ強い、合唱指導者としての斎藤先生でしたが、作品への思い入れというのは、常にすごい気迫を感じるものでした。
音楽家でしたから、音楽の面で学んだのはもちろんですが、2年ほど市民音楽連盟の会計をやらせていただいて、その過程で人間的な面も少しは見させていただきました。私の世代からみれば、ある意味で滑稽ですが、90歳の斎藤先生が、60歳の人たちを「もうろくして」とか「年取ったんじゃない」と揶揄するシーンは、あまりにも印象的です。でも、客観的にみていても、頭のさえ、切れ味は、60才台の「若手」を一喝するだけのことはあったな、と感じます。こんな風景に接した経験…少しであっても、この方が私には貴重なことだったかもしれません。
初めて先生にお会いしたのは、平成9年。先生のご自宅に、市民音楽連盟発刊の『市民愛唱歌集』を購入しにいったときでした。「あなたも合唱なさっているのですか」と聞かれて、とまどって中途半端な答えをしたことだけ覚えています。一方、先生と最後にお会いしたのは、9月の高崎新人演奏会の場でした。歌がうまくなったかはともかくとして、はっきりと「はい、合唱しています」といえる気持ちになれたのは、先生のおかげもあるように思います。
学業、仕事、趣味…など、数々の分野で「かかせない人」はいると思いますが、「趣味」の分野での最も欠かせない人の一人が、一番最初に逝ったように感じています。
連盟の引き継ぎなくお亡くなりになった、というのは、確かに問題ですが、もともと、自分で考えて行動するべきことを先生は常におっしゃっていたようにも思います。どうか、後継者を自覚する人たちは、私利私欲なく、何をするべきか、自分で考えて自ら行動を起こして、先生の「軌跡」を活かしていって欲しいと思います。
(追記) 齋藤先生に最後にご指導いただいたのは、先のねんりんぴっくで演奏した「昔語り」の童謡(群馬ゆかりの童謡を、塚田佳男氏が編曲したもの)か、『土の歌』の1〜3楽章(「農夫と土」「祖国の土」「死の灰」)及び7楽章(大地讃頌)を、高崎市民音楽連盟合唱団で、だったと思います。「死の灰」をやったときは、この戦乱と言える現代において、大地讃讃ばかり有名になった『土の歌』の意義を、また、「昔語り」では、戦後の幼児教育の問題点を、少ないコトバながら語っておっしゃったように思います。
命日でもある17日のねんりんぴっく音楽祭では、「昔語り」が先生の構想にしたがって、24日の合唱祭では、みどり会合唱団が「サトウハチローの詩による…」で、精一杯歌ったことを報告いたします。11月3日には、上記のうち、「農夫と土」「祖国の土」「大地讃頌」を歌います。いつまでも平和を獲得できない無能な人類に希望を与える歌となりますように。
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